東原社長が「カラオケ体験の新たな定義」に本格的に取り組み始めたのは、2015年に代表に就任してからです。最初に手がけたのは「受付と精算のプロセスをゼロにする」ということでした。



「お客様は受付で名前や電話番号を記入し、部屋では飲食の注文に時間を取られ、精算でも待たされる。そのようなプロセスは、付加価値を生むどころか、お客様にとってストレスでしかないと考えました」（東原社長）



その後、業界の先駆けとして全店舗に自動受付・精算機を導入しました。しかし、この取り組みは単に人を機械に置き換えたに過ぎませんでした。そこで、予約、受付、精算の機能を一つのスマートフォンアプリに統合するシステムの開発に着手しました。この取り組みから生まれたのが、2019年にリリースされた「すぐカラ」です。



この直後に発生したコロナ禍により、「すぐカラ」が提供した非対面・非接触のサービスは、予想以上の価値を顧客にもたらしました。その結果、導入から約1年で来店する顧客の約40％がこの予約サービスを利用するようになり、現在ではその割合は60％に達しています。この成功体験は、同社のデジタルトランスフォーメーション（DX）をさらに加速させる要因となっています。

1986年に創業以来、カラオケ業界のリーダーとして成長してきた同社は、不動産開発からサービスオペレーションに至るまでの豊富なリアルビジネスの知識を蓄積しています。さらに、最近加わったのがデジタルサービスに関する専門知識です。顧客が求めるニーズをデジタル技術で実現する姿勢は、もはやテクノロジー企業とも呼べるでしょう。その中心にいるのが、現在30人規模に拡大したデジタル部門です。「我々のデジタル部門は単なるルーティン業務ではなく、常に新しい挑戦が求められるため、大変な面もありますが、新しいことを追求する方には刺激的な環境です」と東原社長は語ります。



従業員数が7000人を超える中でも、スタートアップのようなフラットな企業文化を維持し、豊富なリソースを活用し、稟議や根回しを排除した迅速な意思決定を実現することで、同社はカラオケ体験の再定義と新規事業の展開を続けています。



「顧客の利便性を考えると、当社だけでなく、さまざまな企業でアプリが共通のインターフェースとして利用できる方が望ましいと考えています。質の高いアプリや顧客体験が広まれば、業界全体が活性化し、顧客、当社、他社の三者にとってウィンウィンウィンの関係が築けます。将来的には、データの分析や活用において業界全体で協力できることを望んでいます」と東原社長は述べています。



このビジョンが実現すれば、テクノロジー企業としてのさらなる成長が期待できるでしょう。

株式会社TOAIが業界の常識を打破し続ける背景には、新入社員を含むすべてのスタッフがフラットに働けるスタートアップのような文化があります。



「カラオケの主な顧客層は若者や女性です。そのため、これらのターゲットに向けたサービスは、若手や女性が中心となって考えるのが当然です」と東原社長は述べています。近年、新卒や若い世代、女性の採用に力を入れた結果、現在では社内の管理職の50％以上が30代までの若手や女性で構成されています。



社長室のドアが開いていると、誰でもプレゼンテーションが可能です。提案が魅力的で、発案者が事業を進める意欲と情熱を持っていれば、経験がなくても責任者としての権限が与えられ、サポートも充実しています。実際、今年6月に京都・河原町にオープンした24時間無人販売の生花店「kleine geluk（クレイネヘリュック）」や、前述の「ジャジャーンカラ京大BOX店」は、入社1年目の社員やインターン生が提案を経てプロジェクトリーダーとなり実現しました。



「好きなことに楽しんでチャレンジしてほしい」という東原社長の思いから、入社時の配属も個々の希望を重視しており、現時点での希望達成率は100％、配属ガチャも存在しません。「やりたいことを楽しみながら追求しよう」というシンプルでポジティブなメッセージは、起業家精神を持つ若手人材を惹きつけ、新たな事業の創出を促進し、優秀な人材を呼び込む好循環を生み出しています。



株式会社TOAI（ジャンカラ）社長 東原元規からのメッセージ